インタビュー

社会そして従業員との繋がりを重視する感謝経営

売上主義の終焉と共に気付いた人間性の大切さ

東京・千葉・埼玉を中心に、配置薬だけでなくリハビリデイサービスや、生活支援サービスといった多角的にお客様の生活をサポートする株式会社三和薬品は、地域に愛され続けて2023年現在、会社設立55周年という節目を迎える健康支援企業である。創業当時からの「お客様の健康と美を追求する」という企業理念の実現に向けて、3代目の畑岸真太郎氏は今日も奮闘している。

畑岸社長が配置薬業界に足を踏み入れたのは約20年前。業界に入った当初は景気が良く、現場でお客様に健康商材を提案すると驚くほど何でも売れた時代だった。さらに国民の健康意識が高まる過渡期にも差し掛かり、第二次サプリメントブームの波も訪れ、異様なほどに業界全体が盛り上がっていたと話す。会社の業績も、営業マンたちの努力が実を結び、驚くほどの業績伸長率を叩き出した。働けば働くほど売上は伸び、とにかく「売ることが正義」という異様な加熱ぶりに、畑岸社長も少し戸惑った時代だったと話す。かつてメーカーで働いていた経験を持つ畑岸社長は、当時いかに多くの商品知識をもってお客様に商品の魅力を伝えるかが第一優先であり、とにかく売上をどう伸ばすかということだけに専念していたという。

しかし、配置薬業界に従事してから今日までの20年で様々なことが変化した。景気が良く、業界全体が熱狂したバブル時代は想像していた以上に簡単に終焉を迎えた。時代が移り変わるにつれて、畑岸社長も多くのことを学び、考え方や仕事の捉え方もかなり変化していったと振り返る。業績が下がりだした頃、「商品知識ばかりを身に付け、いかに販売数を増やすか」に傾注した考え方は、今後の経営にはむしろ足かせだと考えるようになった。しっかりとお客様の話を聞くようにすると、自分たちが思っていたよりもお客様は意外と商品自体の知識には興味がないことに気付いた。特に成分などの横文字はほとんどが右から左へ流れているのだ。では、どんなモノなら買いたいのか?とお客様に訊ねたところ、極端な話だが、「どのような商品であっても、この人から買いたい!と思ってもらえる人間になること」の方が大切だと気付いたと語る。


経営者として感謝の方向の違いに気付いた

ここ最近では特に、救急箱・配置箱を設置頂いているお客様に改めて感謝をしようと従業員たちに伝えている。そして実際にお客様に伝えていくよう行動にも移すことを決めた。訪問するたびに、「お客様に救急箱を設置していただき、訪問できるお陰で仕事が出来ています」と、きちんと感謝の想いをお客様先にお伝えする、「感謝キャンペーン」という社内運動を約1年にわたり継続している。傍から見ると、なんだそんなことか、と思われるかもしれないが、この活動には結果が伴っている。お客様が実際に配置薬を利用される・されないに関わらず、感謝の気持ちを伝え続けていると、例えば、今まで薬を置いているだけのお客様が初めて入浴剤をご購入いただくケースが多発し、引き上げ数も極端に減少したそうだ。

実は過去にも同じようなキャンペーンをしたことがあったが、その時は結果が伴わなかった。その時と今ではなにが違うのか?畑岸社長が分析するには、過去の感謝キャンペーンの時は、感謝を伝え売上に直結させる方向で取り入れた。しかし今回は感謝を伝えるだけに留めるように努めた。その想いの差が結果にも表れたのだという。売上とは「お客様からの感謝の気持ち」が表れたもの。だからこそ、まずは私たちがお客様に感謝を伝えることが先決であり、お客様の役に立とう!心から感謝される営業マンになろう!と思う志が優先されるべきであり、お客様からの感謝の気持ちを頂くのは二の次だと全員に伝えた。お客様から「ありがとう」をゲットしようという、その発想自体が誤った考えだと気付いてから良い風が吹いてきたと話す。


物売りから人を大切にするビジネスへの移行

インターネットなどの普及によって、顔を合わせずともできるサービスが世の中に増えたが、ご家庭まで訪問できる配置薬業は、こんな時代だからこそface to face という最大の強みを持っている。現代社会において最も大切なのは、モノを売ることではなく、人と人との繋がりを重視したビジネススタイルにシフトチェンジすることだと考えている。いや、むしろそうせざるを得ない社会状況になったのだと畑岸社長は言う。モノを売るだけではなく、人としてお客様との会話を大切にすることで、今一度、救急箱の必要性を改めて再認識していただき、「薬屋さんの言うことを聞いておいて良かった」と感じていただく絆を深めていく必要がある。

そんな中で少し面白いエピソードが会話の中で出てきた。「私たちは薬だけで関わっていると思うでしょ?実は、訪問して親身にお話を聞くと、薬のことや健康のことだけでなく、ご家庭で起こる様々なお悩みごとを抱えているのが良く見えるのです。」と話す。ある時、お客様の元を訪問していると、生活面での困りごとが思った以上に多いなと感じた。足が悪くて歩きにくい方や、介護が必要な方、蛍光灯を替えることにも一苦労している場面などを目撃した。そんな時、畑岸社長はいつもお客様に声を掛け困りごとの解決に力を貸した。会社に戻り話を聞くと、営業マンたちも同様の経験をたくさんしていることに気付いた。その時に、救急箱を置くだけではなく、もう一歩踏み込んだ生活面でのサポート事業を立ち上げれば、地域の皆様も喜んでいただけるのではないか?という思いが生まれ、生活支援サービスを始めた。
新たな事業として挑戦した生活支援サービス「Benry/ベンリ―」をスタートして1年半ほど経つが、一番多いのは、清掃・不用品整理・家具移動の要望。他には病院への送迎や、買い物代行などもある。
まだまだ薬屋にそういう要望を伝えてくれる人は決して多くなく、地元江戸川区エリアの配置薬顧客のベンリー利用率はまだ約10%程度。しかし、お客様からの需要は必ず潜んでいることは分かっている。ベンリーを始める以前は、配置薬の営業ついでにお客様の困りごとをサポートしようという善意で手伝っていたのだが、逆に恐縮されるお客様が多かった。無償での行動がお願いしづらいのであれば、ビジネスの形にしてあえて代金をいただくようにすればお客様の気持ちが楽になるのではと考えた。それが正解であった。少しずつではあるが確実に利用者は増え、喜んでいただけるお客様も増えてきている。営業マンとの会話も増え、プラスに働くことも増えた。物売りを抑え、役に立つことで流れが変わった。これこそ正に先人たちが築き上げた「先用後利」の進化系ではないかと畑岸社長の話を聞き思った。


時代と共に必ず訪れる変化、「お客様との繋がり」をより大切に

配置薬業界の存続の鍵は、お客様の世代交代が業界の課題となっている。今に始まったことではないが、救急箱を設置していただいたご家族とは、家族付き合いが出来る程全員と仲良くなることが最善の方法なのだが、実際にはなかなか難しい。大家族主義だった昭和という時代から、平成、令和と時代は移り昔の家族の形とは大きく様変わりしている。最近では、救急箱を引き上げて欲しいとの依頼が増えているのが現状だ。先代たちが汗と涙で苦労して築いてきた繋がりを、きちんと繋げていなかったことに大きな悲壮感と反省の念に押しつぶされそうになる。この「繋ぐ」ことの重要性は業界の誰もが理解している。実際、担当が変わった時にそれまで築き上げた繫がりが緩み、挨拶代わりに引き上げ(解約)の申し出がくる。だからこそ担当者が変わる時には細心の注意を払い、事前に2~3回は社員と打ち合わせをしてそのお客様に合った係員を選定し、引継ぎを行っている。


業界の悪しき習慣に甘え、経営努力を怠った

この業界は昔から悪しき習慣が多い。仕入れ値が安くないと取らないとか、それじゃ話にならないとか。数字に惑わされても良いことなど何もないのではないか、そんな疑問を持っている。確かに利益を生まない経営は罪悪ですから掛け率に拘ることは自然。しかし利益とは売れて初めて発生する産物。ニーズがなく販売しにくいが利益の高い商品と、ニーズがあって販売しやすいが利益の薄い商品、どちらを取り扱うか。これは経営者の考え方が分かれるところだと思うが、私は後者を選択する。結果、その方が利益は残ると考えている。他の業界ではもっと納入価は高いしそれをどのようにして利益を生み出すのか考えるのが経営だと思う。
今、我々の業界に起こっている顧客離れや業界の縮小は、こうした甘えが引き起こした末路だと畑岸社長は話す。この業界は儲けすぎた業界だと思うし、古薬の問題にしても等価交換が当たり前で、どうせ期限切れになっても交換できるからという甘い考えが経営努力を失くした。経営努力をする活力がないと、売上重視の経営になってしまい、営業マンたちに売上を追うことばかり指示を出してしまう。現場では押し売りのような形で現売が行われ、顧客が遠のいていく。そんな業界に嫌気がさし、働く人も居なくなった。これが今の配置薬業界だと自らの過去を振り返り悔しそうな表情を浮かべた。
だからこそ、過去の反省を踏まえ、今できることは何でもやっていこうと新たな挑戦をしている。会社の体制然り、人間関係然り、お客様のニーズの追求も然り。社会のトータルケアを考えたときに、自分たちには何が出来るのか?を真剣に考え、様々な挑戦をしていこうと従業員たちと話しているのだという。


地域から愛される会社を創ることこそが使命

畑岸社長自身も反省すべき点だと自覚している部分がある。それは、「失敗したことを言わない」ということだ。業界の会合などで集まると、良い話はするが、失敗した話を隠そうとする経営者が多いのだという。失敗こそが成長の糧であるはずなのに、集まるたびに業界全体で傷の舐めあいのような会話が多く、自分自身もそうだったと反省している。失敗談を共有することで、きちんと向き合いアドバイスももらえたはず。そうしていればもっと業界の活性化に繋がったはずだと悔いている部分がある。
今までのことはもう取り戻せない。だからこそ未来に向けた話が出来る業界の人たちとの信頼関係を構築していける場が欲しいと話す。仕事に対する考え方の人材教育、社内人事の調整方法、社長の想いや理念を共有する方法などを販社・メーカー問わず業界全体で共有することで全体の底上げに繋がるのではないだろうか。もちろん商品は大切だが、この仕事はまずは信頼が基本だと思うからこそ、そういった内部的なところから製販一体となり共に業界の活性化に繋げられたら、と畑岸社長は未来の業界に対しての希望を語った。

最後に、畑岸社長の企業としての理想像を聞いてみた。すると面白い答えが返ってきた。「僕の理想はサザエさんの家にお酒を運んでくれる三河屋さんのような地域から愛される会社になることです」と笑顔で答えた。実は、畑岸社長の実家にも酒屋さんがよく来ていたそうだ。家族のような関係で家庭内の話を談笑しながらお酒を見ていく。そんな関係性が創れる会社こそ、地域から本当に愛される企業になっていくのだろう。三和薬品がある江戸川区の方が全員味方になってくれる、就職するなら三和薬品なら間違いないと地元の方に言っていただける、そんな地域から愛される会社に成長させることが自分の使命だと考えていると熱く答えた。



三和薬品株式会社 〒134-0083 東京都江戸川区中葛西1-11-2
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