インタビュー

経営者と従業員それぞれが 同じゴールを目指して。

アルバイトを通して知った父の苦労

兵庫県丹波市・京都府北部で配置薬業を営む竹内薬品株式会社。その3代目として尽力するのが竹内秀介氏だ。  
竹内薬品株式会社は、創業者である父が、30歳直前に脱サラをし、1人で約1000軒の新規開拓をしたところからスタートした。時代はバブルに突入する直前。経済の成長と共に、会社の業績もうなぎ登り、従業員も急増し、まさしく急成長を遂げていった。秀介氏は会社が成長する姿を父の横で見ながら幼少期を過ごした。
配置薬業界に入ったのは25年前。大学の夏休みなどの長期休暇を利用し、軽い気持ちで家業のアルバイトをしたいと父に頼んだ。アルバイトをして初めて新付けの厳しさを知った。1日たったの数軒という単純な数字が、朝起きた時からストレスとしてのし掛かる。「早くこの苦痛から解放されたい」と何度も願った。父が脱サラをして築き上げた「お客様の大切さ」を知った。今思い返すと、人生で一番辛かった時期かもしれない。しかし、そんな辛い記憶も、今では経験しておいて良かったと心から思う。


泡のように消え去った配置薬の利便性

入社当初は福知山を父から任され、綾部・舞鶴・丹波・福井と様々な地域を回った。入社当初、世の中では社会の高齢化が問題視されていたが、出会うお客様や、業界の人たちも若く、高齢化など感じさせない元気な業界だと疑わなかった。現代のようなインターネットは無く、出向いた先では皆が配置薬の利便性の高さに喜び、薬を買ってくれるという時代だった。しかし、今ではかつての便利さは泡のように消え去り、昔のように商売ができない。お客様の高齢化が進み次の世代に繋がらない。そんな課題が常に付きまとう時代となった。昔、業界最大の武器であった「先用後利」が便利と思ってもらえる時代はもう終わったのだと思う。こちらから訪問するメリットをお伝えしても、お客様はメリットと感じない。お客様に1人の人間として接し、信頼を勝ち取ることこそが重要だという。「お客様とまずは信頼関係を構築し、その後で利を得る。人間関係ができ、お客様の役に立ち、初めて私たちの商品が動いていく。それが本来の先用後利だと思います。」と竹内氏は話した。

お客様の役に立つことは何でもやろう。

お客様に対して「100%の満足提供」に日々挑戦しているが、現実はなかなか難しい。本当に薬屋という立場を忘れるほどお客様のためにという精神で突き止めていかないとできないことだろう。本業とはかけ離れていても、それがお客様の役に立つのであれば進んでしよう!という精神で取り組んでいる。例えば粗大ごみの処理にお困りのお客様がいたら持ち帰り処理したり、廃棄業者を紹介したりもした。その他にも、電球を交換したり、とにかくお客様が喜ぶことを徹底的にやっていこうと従業員たちと話している。昔からそのスタンスは変わらない。まだ、営業マンだった頃に薬箱の服用だけで100万円の売上達成を目標にしていた。しかし、ただ無理に使ってもらっていては達成できないことに気付いた。だからこそ「お客様に笑顔でいてもらう」ことの大切さに気付いた。


「お客様の表情」には情報が隠れている。

同じ業界の人から言わせると、当たり前だろと思うかもしれないが、その当たり前が実は一番大切で一番難しい。「こんにちは」から始まり、「今日もありがとうございました」と帰る際のお客様の表情を大切にした。お客様が笑って送り出してくれたら満点。さらに言うと、明るく笑顔でポジティブにお代金をいただけるような対応になれば、お客様も心の底から喜んでいただけているのだな、と安心する。逆に、お金を出さないといけないのか・・・と心から納得していない方も表情でわかる。だからこそ、帰り際とお代金をいただく時のお客様の表情には特に気を付けた。そういったお客様の表情一つでたくさんのことがわかる。お客様と真剣に向き合ってこそ解る部分だと思う。


経営者になり気付いた責任の重さ

社長になって最も変わったことといえば責任感の違い。お客様に喜んでいただくためのアイデアは今でも変わらず出てくるが、その結果まで考えないといけなくなった。そのために掛かるコストも、人選も含めて全てのことをゴールまで考えなくてはならないのが経営者の仕事だと思う。良い結果が出た場合、それはきっとアイデアのお陰。しかし、もしも悪い結果となった場合、それは社長の責任だと思う。だからこそ、営業マンの時代と違って、今では何をするにしても、スタートからゴールまでを考え、その上で、コストや人選のことが常に頭をよぎるようになったと、少し苦笑いをしていた。他にも、社長に就任して大切にしたのが「従業員のための環境整備」だ。要は、従業員が働きやすい会社にしようという想いだ。会社を運営していこうと思っても社長1人では何もできない。だからこそ、従業員の自主性を信じて重んじることを大切にしている。しかし、実際は少し違うらしい。「気持ちは十分だが僕の性分が許さない。社員が音頭を取り、口を出さないように我慢して任せてはいるが、ついつい茶々を入れてしまう。」と笑いながら従業員への謝罪の気持ちを口にした。従業員たちはどう思っているのかと少し心配しつつも、社員の適材適所を考えて、従業員ができるだけ自己肯定感が高まるように、今後も経営者として工夫していくと語った。

愛にあふれた仕事の提供が地域を元気にする

その工夫の一つが企業理念だ。企業理念を聞くと、「ラブ・スマイル・元気」です、と力強く答えた。「この理念は、社長に就任して間もない頃に、岡山県の配置薬販売会社に勉強に伺ったのですが、その会社が、自分の理想とする会社像に非常に近く感銘を受けた。そして、そこの社長に何度も相談をしながら、今の竹内薬品の企業理念を作りあげた。」と理念完成までのエピソードを語ってくれた。竹内薬品の企業理念は、どちらかと言えば、社内にベクトルが向いている。愛と笑顔があふれた会社にすることでお客様に対しても愛にあふれた仕事が提供でき、地域を元気にできる。そういった仕事を続けていくことで、必ず地域のファンは増えていくに違いないという確信があった。また、企業理念のほかにも、「健康寿命創造企業」という企業スローガンがある。このスローガンは2代目が掲げたものを引き継いでいる。人生100年時代。お客様が自立して長く健康的な人生を過ごしていただけるように、真摯に寄り添っていこうという意味で掲げている。創業者の父や2代目の叔父はエネルギーが凄くて拡大路線で走ってきた。しかし、今は拡大よりも今当社を支える従業員を大切にして、背中を預けられる仲間として一緒に仕事をしていきたい。そのためにもサービスの均一化に努めている。例えば、課長と新入社員では同じ竹内薬品のお客様でも受けるサービスが変わってきてしまう。新人には新人なりの良さはもちろんあるが、そうはいっても十分なサービスとは言い切れない。どんな企業でも常にある課題だと思うが、そこを均一化できるように勉強会だったり、SNSなどを今後は積極利用し、お客様とのコミュニケーションを図りたい。


現代の「配置薬」の存在と次世代へ向けて

高齢化が進み自然とお客様は減っていく。それが悩みの種の同業者も多い。引退される方からお客様を引き継いでも、そのお客様も大半が高齢者だ。だからこそ引継ぎだけでは根本的な解決にはならない。やはり配置薬自体の認知度の向上やイメージアップが必要だと考える。ある若者に配置薬の発祥の地を聞いてみたが、答えは「知らない」だった。今の配置薬とはそういう存在だということを痛感した。人の意識から忘れられる存在になりつつある。次世代を取り込むためにも、全国の配置薬業者が、どういった取り組みをしているのか学ぶ場があったり、意見交換をする場があれば良いと思う。様々な考えを知ることが出来て、業界全体が活性化していけるのではないかと思う。しかし、アイデアがあっても人手や資金が足りない、そう嘆く同業者も多いはず。販路を広げていく為にも、新付けが重要なのは言うまでもなく、製販一体となり新付けを協力できる体制が整えば、業界も活性化していくだろう。対面販売は、いつの時代でも最も強いスタイルのはず。メーカーも販社も売込みだけでなく、フランクに業界の未来について語り合えるような関係になり、互いに知恵を出し合えていける仲間になることを願っている。



竹内薬品株式会社 〒669-3105 兵庫県丹波市山南町北太田246
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