インタビュー

配置薬業界のDX化促進で市場活性を実現する。

薬屋のアトツギと言われるのが大嫌いだった少年時代

奈良県大和高田市で製薬業を営むワキ製薬株式会社。その5代目として注目を浴びているのが脇本真之介氏だ。  
ワキ製薬株式会社は、創業1882年という老舗メーカー。2022年で創業から140周年を迎えた。創業者は脇本卯造で、元々は金物屋だったが、医薬品製造メーカーとの出会いを経て、医薬品の卸売業と薬店を開業することとなった。最初は様々なメーカーの薬を仕入れていたが、数年後には星製薬の代理店として業績を伸ばしていった。その後、2代目となる直治郎には、娘しかいなかったことから、取引のあった配置薬業者の末っ子を婿養子として迎える。これが転機となった。その婿入りした後の3代目社長となる佳信(よしのぶ)は、薬剤師免許を取得しており、これを機に自社製造に踏み切ろうと、製薬メーカーへと舵を切りました。これがワキ製薬株式会社の始まりとなります。その後、4代目となる現会長の吉清の代で、ミミズ乾燥粉末のサプリメントが大ヒットし、現在の5代目へと繋がっていく。
そんな5代目である脇本社長は、子供の頃から「薬屋のボン」と呼ばれるのが大嫌いで、跡継ぎになるのは絶対にイヤだったという。大学時代にネットという世界を知り、ネット販売やオークションでビジネスの世界へと興味を持った。その興味はいつしか大きくなり、大学を中退し就職することにした。誰よりも早く稼ぎたい!そんな夢を持っていたので、就職先はフルコミッションの営業に絞って就職活動を行った。

初めての就職活動では、挫折を味わった。努力しても売れないという地獄の日々。ストレスで辞めようと何度も考えたが、逃げ出すのは性に合わなかった。しかし、フルコミッションという社内の雰囲気は、「結果が遺せない者は去れ」という空気で、先輩たちからは日々、罵声を受け続けた。そんな中でも諦めずしがみついたことが、結果を変えていく。少しずつ売れるようになり、ついにはトップ3に入る成績を残す営業マンへと成長した。この時、家業を継がなくて本当に良かった、これが正解だったと感じたという。

祖父の言葉と両親の言葉をきっかけに業界へ

順風満帆な営業生活を送っていたある日、祖父がガンで入院するという話を聞いた。症状は末期ガンということで、あまり長くはないとも聞かされた。昔から厳しい祖父を嫌っていたが、長くないと聞くとやはり心配になり病床へ通った。何度か見舞いに訪れると、祖父からこんな話があった。「医薬品業界は良い業界だ。特に配置薬の現場を回ってみろ。お客様のありがたさや、薬屋の楽しさが分かる。」こんな話を何度もされた。配置薬業界には全く興味が無かった。父が後を継いで製薬会社を経営しているとはいっても、たった6人の家内工業。今の月収を考えれば何の魅力もない業界だった。そんな祖父の話を何度も聞いている中で、祖父の死を目の当たりにした。

祖父の葬儀に立つと、業界関係者の方々が数多く弔問に訪れ、祖父の知らない一面を知った。こんなに多くの方が祖父の死を悲しんでくれているのか・・・葬儀が終わった後には両親が「もう俺の代で終わりやな」と話しているのをたまたま耳にした。祖父の言葉と両親の言葉、この2つの言葉がきっかけで業界に入ってみよう!入っても30歳までやって何も得られなかったら、また転職して営業職に復帰しよう、そんな軽い気持ちで前職を辞めてアトツギになることを決意した。


配置員の方が多くのことを教えてくれた

製薬メーカーのアトツギとして入社したのは2001年。家業に戻ると、子供の頃から顔なじみの従業員ばかりで居心地は非常に良かった。しかし、営業マンとしてバリバリしていた頃と比べると刺激が少ない。とりあえず既存のお客様を回ったり、新たなお取引先を探そうと営業活動を始めた。最初は業界のことが何もわからず、卸業者の社長や業界の先輩営業マン、配置薬業を営む個人の配置員さんたちの自宅を何度も訪れた。その度に耳にするのは祖父の昔の話だった。「お前のじいさんは素晴らしい人だった。一緒に雪の中でござを引いて薬を売ったりした。」そんな話を良く耳にした。また、逆にお叱りを受けることもあった。今でも忘れないのが、葛城市の配置員さんの自宅を訪問した際に、敷居を踏んで中に入った時のことだ。配置員さんに驚くほど叱られ、一般常識というものを叩き込まれた思い出がある。また、ある配置員さんには、入社すぐに商品説明をしろと言われ、できずに叱られたこともあった。それでもめげなかった。お叱りを受けた配置員さんには、必ず翌日訪れ、同じことをしないというところを見せて、笑いを取った。そうして多くの経験を配置薬業界の方々からいただいた。


配置薬業界の衰退の原因とは

配置薬業界の方々に支えられ、会社も大きく育てていただき、入社当時の2001年にはたった6人だった会社が、5代目となった2012年には約25人、今では50名を超える従業員を抱えるようになった。その中で倒産の危機も経験してきたが、それも乗り越え今がある。「配置薬業界に携わり約20年が経過しましたが、入社当時は100近くの製薬メーカがありました。しかし、現在は50を切り半分以下になりました。そして配置員の方々も高齢化が進むと共に、後継者不足の問題や、消費者とのトラブルによる悪評なども増加し、業界全体が縮小の一途を辿っているのが非常に残念です。」と脇本社長は話す。引き上げの問題などもあり、縮小傾向が加速するのも時間の問題と考えている。その問題点の原点にあるのが、小売業で一時の栄光を掴んだダイエーと似た仕組みを持つ配置薬業界独自のシステムだという。業界の方なら誰でも知っている「ル薬」問題である。この仕組みを正しく説明できる人は業界にどれだけいるのか?何回目でどれだけの赤字を生み出すのか?キャッシュフロー図で考えるとダイエーが取った返品システムと類似した仕組みであることが分かる。財務諸表をしっかりと見て、どこに問題があるのか?を把握する必要がある。しかし、配置薬業界に携わる経営者の多くは、財務よりも営業現場を重視する。売り上げがどうだ、という話をよく耳にするが、売り上げを上げると利益が増え会社が回ると勘違いしている経営者が多いことを指摘する。経営の世界では売り上げを上げても利益が増えないことは明白の原理であるにも関わらず、売り上げ優先となる。仕入れ率がどうとか、交換率がどうとか?そういった目先の数字しか理解していないからこそ、経営に力を入れなくなる。要は業界の衰退の原因は、ル薬と仕入率にこだわり「経営」という努力をしていない部分にあるという。その他にも、例えばインボイス制度についても、異業種の経営者であれば、2023年を見据えて取り組んでいるのは当然のこと。配置薬業界の経営者にインボイスについて聞くと、それって何?という返信が返ってくるという。こういった情報弱者である部分も業界縮小の大きな要因の一つだという。


DX化促進で利便性を高めUX化を促進

では、どのような取り組みをすれば市場は活性化していくのか?脇本社長の考えを伺った。
先用後利の時代はとうに終焉を迎えている。どのような業界も先にサンプル提供などを行い、お客様とのタッチポイント(接触頻度)の増加を目的とした事業活動を行っている。その中で、お客様との接触機会を増やすのがSNSであったり、ウェブであったりアプリなんかを活用している。そして消費者動向のデータを蓄積し、データ活用を行い更にお客様や使用者の利便性を高める経営努力をどの企業も実行している。つまりDX化を進め、ユーザー参加型(UX化)の事業展開を行う企業が増えている。顧客とデジタルの関係性をいかに築くのか?そして顧客利便性をどのように高めるのか?がこれからの重要なポイントです。配置薬業界はアナログな業界すぎて、消費者とのタッチポイントも気にしない、お客様の動向のデータ蓄積も行わない、このような時代遅れの業界では社会から取り残されていくのは当然であり、淘汰されるのも時間の問題です。お客様にとって価値があるからこそ市場があるわけで、お客様視点で価値のない市場は当然、淘汰されるのです。だからこそ、今DX化を促進し、消費者の利便性を高め、それをUXへと応用する、そういったビジネスモデルに変化すべきなのである、と脇本社長は語った。


業界にDX変革を巻き起こし業界活性へ

「一人の人間として育てていただいたご恩を業界に返したいんです。私が育ててていただいた配置員さんたちは既に多くの方が他界しました。しかし、今、その息子さんたちが苦しんでおられます。そういった皆さんに、次は私が恩返しする番です。ある配置員さんと息子さんは継がないんですか?と聞いた時、継がせられるわけないやろ!と返事が来たんです。それを聞いて、じゃ、継がせたくなる業界にしますね!だから協力してください!」と脇本社長は答えたという。目指すのは、消費者の方々から支持をいただける仕組みづくり。消費者の方々の利便性と、配置薬業者が経営の立て直せる指標を見つけられるDX化。その構築を実現するのが今の夢だという。

最後に、大きな夢を語る脇本社長に「今後の配置薬業界」について聞いてみた。

今後の配置薬業界がどうなるか?それは業界に携わる方たちの想い次第だと思います。みんなで変わろう!という強い意志を持てば変わっていくでしょう。少数でも良いので、一緒に業界を変えていきましょう!とおっしゃっていただける販社さんがあれば、私たちはメーカーとして全力で支援いたします。300年間もの長い時間、システムも何も変えずに配置薬業が継続したのは奇跡と言っていいのではないでしょうか?ただ、現代ではそうもいきません。これからは業界に携わる方たちが自ら変わり、様々なことにチャレンジしていく中で、人が変わり業界が変わっていくのだと思います。まずは市場を支える消費者の皆さんの声をしっかりと聞き、それに一つずつ真摯に対応していくことで業界へ対する評判も変わっていくでしょう。売り上げの向上は一旦捨てて思考を変革させることだと思います。取り組み方を変えれば若い人たちも集まってきます。仕事を楽しんでいるか?それも大きな要因ですね。今、働いている人たちが楽しく仕事が出来ていない会社に人は集まらないと思います。働く人が楽しめる会社、そんな会社が業界に増えれば良いのにな、そう願っています。



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