インタビュー

廃業の危機を乗り越え、新たな挑戦を

会社の事務所は配置売薬憩いの場
年中あふれる多くの笑顔

奈良県葛城市で配置薬の製造を主として長い歴史を持つ和平製薬株式会社。その4代目として2022年に就任したのが岡井勇二氏だ。1945年、終戦の年に創業した和平製薬は、国民の生活向上には健康と喜びが必要だという強い思いを抱き勇二氏曾祖父が創業し、岡井一族で家庭配置薬メーカーとして、長年にわたって医薬品を提供し続けてきた。幼い頃、学校帰りに会社に立ち寄ると、いつも配置売薬を営むおじさん達が集まり、会社のソファでくつろぎ、楽しそうに話していたのを思い出す。和平製薬は、多くの配置売薬さん達の憩いの場として多くの笑顔であふれていた。よく祖父や父が配置売屋のおじさん達と一緒に外出するのを羨ましく眺めていた。幼少期の頃から、そんあ人情味が溢れる配置売薬のおじさんたちに囲まれて育った勇二氏は、売薬さん達に対して「お客さん」というより、「親戚のおじちゃん」のような親近感を持っていたという。
そんな岡井社長が、配置薬業界に足を踏み入れたのは24歳。実は、次男ということもあり、家業を継ぐ気は一切なく、高校を卒業と同時に、衣食住が保証され、車の免許や数多くの資格を取得できるという誘いを受けて、自衛隊に入隊し6年間、陸上自衛隊に所属した。男三人の兄弟で、「僕が継がなくても兄か弟が会社を継ぐだろう」と安易に考えていたが、兄も弟も早々に結婚し家を離れてしまい、その上、薬業界に親戚が多いということもあり、周囲からのプレッシャーも相重なり、自衛隊を辞め、家業である和平製薬を手伝うことを決めた。


配置売薬は天職、そう思えた20代半ば
自分が出来ることは何かを模索した

家業に戻り、配置薬業界について、父から少しずつ学ぶ必要があった。まずはメーカーでありながら、配置薬の顧客を北海道一円に所有していたこともあり、岡井社長自身も長年、営業マンとして一軒一軒、家庭を回り薬の入替業務を行った。お客様を訪問すると、お客様から頼られたり、体や薬の相談を受けることも多かったので、配置薬メーカーとして、自分自身は何をするべきか?を身をもって学んだという。配置売薬は自分にとって合っていたのか、苦もなく仕事を楽しむことが出来たし、配置売薬という仕事が本当に大好きになった。お客様に会いに行くというより、遠くにいる親戚や友達に会いに行くような気持ちでいつも回っていた。しかし、業界に長くいると現実が襲い掛かってくる。高齢者が非常に多い特異な業界である配置売薬は、自衛隊時代と比べるとあまりに異質な業界であるということを感じた。実は、自衛隊という組織は、余り知られていないが54歳が定年となっているため、回りには若者が大多数で60歳を超える方がほとんどいない。そういったこともあり、余計に配置薬業界の平均年齢の高さに驚いた。毎年、年初には恒例となっている配置薬業界の新年の集まりがある。父に連れられて、新年会に初めて参加したのが、25歳だった。その時はまだ業界の衰退を感じることもなく、20代から80代まで幅広い年代の方がいて活気にあふれ面白みを感じたが、年々、参加する人が減少し、若い人は業界から去っていき、後を継ぐという人も少なくなった。近年では、余りに人が少なくなりすぎたので「席を前に詰めてください」というアナウンスが流れるほどになった。若い人がどんどん去り行く業界へと変化する中で、自分に出来ることは一体何なのか?そういったことを自問自答する日々が続くようになった。


震災が繋いだお客様とのご縁
先用後利の精神は絆を生み出す

配置薬の現場で過ごした時間は約14年。この14年の間にたくさんの人が業界を去った。そういう現状を目の当たりにして、岡井社長の心の中にも大きな変化が生まれ出した。まず、よく薬を利用していただけるのは、本当にありがたいことだが、お客様のことを真剣に考えるほど、こんなに飲んで大丈夫なのか?という心配が第一に来てしまう。置く量を減らすと、売り上げも必然的に下がるのだが、それでもお客様のことを想い、思い切って置く量を減らした。お客様からは減らした量で足りたと喜んでくれるお客様も現れだした。また、訪問前にお電話を掛けると、「その日は留守だから、玄関先に薬箱と代金を置いておくから入替に来て」とおっしゃる方もいて、信頼されているのだと嬉しく感じる日もあった。あるお客様は、配置薬だけではなく次の得意先の近くにある施設まで送ってほしいという依頼があれば、進んでタクシーの代わりを請け負った。また、高齢のお客様に対しては、なかなか外出するのも大変なことを考慮し、訪問前に必要な家庭用品などがあれば電話で聞いておき、入替の時に届けるという買い物代行のようなことまでやった。どんな些細なことでも、お客様が喜ばれることをしようと決めてお客様と接していた。すると自然とお客様の日常生活に溶け込み、更に信頼感が増していくのがわかった。東北の大震災があった時には、少なからず北海道にも影響があり、お客様の中にも様々なことでお困りになった方がたくさんいた。そんな中で、タイヤ交換や、タンスの修復なども進んで手伝った。そうした小さなことを積み重ねていると、恩に感じてくださった方が、ご家族や周囲の方に話をし、新規のお客様に繋がったり、次世代に繋がることもあった。今思うと、お客様のことを真剣に考えた行動が、いつしか信頼に繋がり、その結果として配置薬の売上向上に繋がった。まさしく先用後利の実体験を体感した。


製販ともに自利を追求した結果が
大量の廃業者を出す結果に

配置薬業界には一般社会と異なり、独自の商ルールが多く存在する。その中でも代表的なのが商品の交換制度だろう。一般的な物の商流というのは、販売者から購入者が買取し、その場で現金を支払うのが一般的だろう。しかし、配置薬は使用期限がある間は、消費者のご家庭にお預けする形(いわば委託)であり、使用した分だけ支払うという販売スタイル。なので、消費者が使用せずに使用期限を超過した製品に関しては、メーカーに返品し、新品と交換するのが一般的な商流となっている。岡井社長自身も、この独自のルールを初めて知った時には驚愕したと話す。配置員として働いているときは、販売者に対して非常にメリットのある素晴らしい制度と感じていたが、一方では、製造めーかーという立ち位置も担っているので、心から喜べるものではなかった。特に、自分自身、製造に携わり、六神丸や鎮痛剤を製造しているからこそ、っかく世に出た製品が、使用期限を迎え返品される悲しさと、メーカーとしての利益を徐々に失っていく交換制度に、首を締められるような辛さがあったという。こうした製販両方の経験を持つ岡井社長だからこそ、ル薬・交換制度はサステナブルな社会を目指す現代において、時代にそぐわない業界であり、衰退するのは当然であると痛感しているという。自身もそうであったように、商品が返品できるという「経営に対する甘え」しか生み出さないのだと話す。そんな甘えが、和平製薬を廃業の危機に追い込んでいくことになる。こういった製造側と販売側での認識の差が、配置薬業界を\悪循環に陥らせた原因だと考えている。配置業者はメーカーに単価と交換率だけを求め、自社の利益だけを優先する。メーカーはメーカーの立場で、採算が合わなければ簡単に商品の廃盤を決定する。そんなお客様の都合など、一切考えずに、自分たちのことしか考えなくなった業界の体質に、多くの廃業者が出る原因になった。その一つが、私たち和平製薬だったと反省していると岡井社長は語る。

M&Aにより繋がった和平製薬
次は私たちが業界に恩返しを

和平製薬も廃業の危機を迎えることになる。先代社長の時代、販売先の廃業や薬剤師の高齢化など、多くの要因が重なり、製薬メーカーとして経営を継続していくことが困難になった。「お客様に迷惑を掛けるわけにはいかない」その一心でいろいろと模索している中で、ワキ製薬の脇本社長と出会い、とんとん拍子で支援してもらえることになりグループ会社となった。M&Aという形で買収された形だが、経営権はそのままで、岡井一族に託してもらった。そこからは、ワキ製薬のノウハウを教受されたり、様々な面でサポートを受けながら、共に今後の配置薬業界を支えていく製薬メーカーとして切磋琢磨し合えるように日々奮闘している。次々と配置薬メーカーが廃業を決め、伝統薬という財産が失われていく中で、お客様に頼りにされ続ける製薬メーカーとして継続できることができた。そんな恩をこれからは自分が返す番だと考えている。
脇本社長の考えは、「昔お世話になった配置売薬の後継者の方々が苦戦している、そんな業界に対して恩返しをするのが僕らの役目。後継者の方たちを救えるメーカーになろう!」というもの。岡井社長が幼少の頃に見た笑顔の溢れる事務所は今はなくなったが、これからは自分自身が、そういった場所を提供できるメーカーになりたいと強く願っている。そのためには、これまでのような甘えは捨て、経営者として従業員、そしてお客様、業界を支えられる経営者にならなければいけないと考えている。そのためには、学ぶことも必要であるし、自分自身が率先垂範して行動していかなければならないと認識している。

和平製薬の企業理念は「疾病予防と健康創出そしてすべての人の喜びのために」これは先々代が作った理念。全ての人の喜びを考えられずに良いものは作れないと思うからこそ、企業理念を大切に働いていきたいと岡井氏は言う。加えて工場理念というのも作ろうと考えているそうだ。最近は視野が狭くなっていたと感じるため、自身が社長となり新体制となった今、社会に役立つにはどうすればいいのかを基本に、お互いに助け合い、業界をより良くしていけたらと人の良さが滲む笑顔で岡井氏は締めくくった。




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